問題番号 : 110G68

本問は,110G66~68の連問の一部です。

 78歳の男性。呼吸困難と下腿浮腫とを主訴に来院した。
現病歴:心不全,心筋梗塞および高血圧症にて自宅近くの診療所に通院中であった。2か月前から階段を上がる際に胸部の違和感を覚えるようになった。1か月前から歩行時の呼吸困難と下腿浮腫とを自覚するようになった。呼吸困難は徐々に悪化し,10 mさえも歩くことが困難になり受診した。
既往歴:65歳から高血圧症。75歳時に心筋梗塞にて経皮的冠動脈形成術(薬剤溶出性ステント留置)。76歳から心不全。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,β遮断薬,ループ利尿薬,HMG-CoA還元酵素阻害薬,アスピリン及びチエノピリジン系抗血小板薬を処方されている。
生活歴:喫煙は70歳まで20本/日を50年間。飲酒は機会飲酒。
家族歴:父親は脳出血で死亡。母親は胃癌で死亡。
現 症:意識は清明。身長154 cm,体重58 kg(1か月で3 kg増加)。体温36.3℃。脈拍96/分,整。血圧156/86 mmHg。呼吸数24/分。SpO2 96%(鼻カニューラ2 L/分 酸素投与下)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認める。頸部血管雑音を聴取しない。胸部の聴診でⅢ音とⅣ音とを聴取する。心雑音を聴取しない。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。両側の下腿に浮腫を認める。
検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-),沈渣に白血球を認めない。血液所見:赤血球412万,Hb 13.8 g/dL,Ht 42%,白血球6,500(桿状核好中球30%,分葉核好中球40%,好酸球1%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球22%),血小板19万,Dダイマー0.6 μg/dL(基準1.0以下)。血液生化学所見:総蛋白6.5 g/dL,アルブミン3.8 g/dL,総ビリルビン1.1 mg/dL,AST 36 IU/L,ALT 39 IU/L,LD 352 IU/L(基準176~353),ALP 153 IU/L(基準115~359),CK 156 IU/L(基準30~140),尿素窒素21 mg/dL,クレアチニン0.9 mg/dL,血糖114 mg/dL,HbA1c 5.7%(基準4.6~6.2),総コレステロール139 mg/dL,トリグリセリド77 mg/dL,HDLコレステロール53 mg/dL,Na 137 mEq/L,K 4.7 mEq/L,Cl 104 mEq/L,脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉840 pg/mL(基準18.4以下)。CRP 0.2 mg/dL。心筋トロポニンT迅速検査は陰性。心電図は心拍数98/分の洞調律で,不完全右脚ブロックを認める。胸部エックス線写真で心胸郭比は58%であり,肺血管陰影の増強と右肋骨横隔膜角の鈍化とを認める。心エコーで左室駆出率は34%で,びまん性に左室の壁運動低下を認める。
入院後の経過:入院し適切な治療を行ったところ徐々に病状は改善し,入院3日目には,酸素投与を中止し内服薬をすべて再開した。入院5日目の夜,トイレに行こうとしてベッドサイドで転倒した。意識は清明。体温36.8℃。脈拍88/分,整。血圧138/84 mmHg。呼吸数18/分。SpO2 96%(room air)。大腿骨エックス線写真と腰椎エックス線写真で骨折を認めない。頭部CTで異常を認めない。
その後の経過:入院10日目の昼ころから,心窩部に軽い痛みを感じるようになった。翌朝,黒色便が出現した。意識は清明。体温36.6℃。脈拍100/分,整。血圧98/56 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 97%(room air)。

 対応として適切でないのはどれか。

正解
b
国試正答率
69%

Assessment
①心筋梗塞の既往,心胸郭比58%,左室駆出率〈EF〉34

無料会員登録していただくと、実際の解説をすべて見ることができます。急性の呼吸困難を主訴とする疾患としては,喉頭浮腫,気道異物,自然気胸,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患の急性増悪などの呼吸器疾患,心不全(急性,慢性の急性増悪),肺血栓塞栓症などの循環器疾患が代表的である。この症例では呼吸器感染症と心不全が疑われるが,胸部エックス線写真は肺炎像というよりも両心不全を示唆する所見を示している。診断:心不全(両心不全)(Nohria分類wet and warm) 選択肢考察 ×a 強い呼吸困難,胸痛などにより安静が保てない場合には,血管拡張による前負荷軽減と,交感神経抑制による心筋酸素消費量の減少を目的としてモルヒネを使用する。この症例ではモルヒネが必要となるほどの興奮状態ではない。

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